患者の皆様が、医療機関や医師を選ぶ基準として、ネットの口コミやSNS上の評判が大きな影響を持つようになりました。
とりわけ大学病院などの大規模な医療機関においても、SNSや口コミサイトの存在は無視できないものとなっています。
では実際に、病院やクリニック等の医療機関はSNS(Xやインスタグラム)や口コミサイトとどう付き合っていくべきなのでしょうか。
医療とデジタルを掛け合わせたサービスを次々と生み出し、業界をリードするドクターズ株式会社 代表取締役社長 兼CEOの柳川貴雄氏に話を伺いました。
ネット上の口コミが医療機関に及ぼす影響
<div style=”background: #fcfaf2; padding: 15px; border: 0px solid #fcfaf2; border-radius: 10px; word-break: break-all;”><span style=”color: #000080;”>‐‐近年、ネットの口コミや評判が医療機関にも直接的に影響を与えています。医師や医療従事者として、この状況をどのように捉えていらっしゃいますか?</span></div>
柳川:ネットの世界が進みSNS社会になり、患者の皆様から「ネットで評価が高かったから来ました」「口コミを見て先生の外来に来ました」といった言葉を耳にすることが増えてきていると思います。これは都市部の大きなや病院やクリニックだけではなく、地方の医療機関にも同様の事象が起きつつあります。
医療の内容というのは一般の方にとって分かりにくい部分が多いですから、実際に受診された患者の皆様の評価は一つの指標になりうると思います。と同時に、ネット上での評価は玉石混交であり、正確かどうか判断がつかないこともあります。医療現場としては、そうした「不確かさ」が患者の皆様の受診行動に影響していると強く感じます。
レストランや美容院を選ぶような感覚と同じとはいいませんが、ただ、医療の世界においても口コミが増えるのは自然な流れです。患者の皆様の立場からすれば「その医療機関はどんな雰囲気なのか」「信頼できるか」という情報を知りたいのは当然のことですよね。そうした口コミの時代に、私たち医療機関側がどのように対応していくことが重要です。
大学病院や総合病院での口コミ対策とSNSの活用
<div style=”background: #fcfaf2; padding: 15px; border: 0px solid #fcfaf2; border-radius: 10px; word-break: break-all;”><span style=”color: #000080;”>‐‐大学病院や総合病院といった大規模医療機関の場合、規模が大きいがゆえに評判が良くも悪くも広がりやすいと思います。組織としてはどのように取り組むべきでしょうか。</span></div>
柳川:大学病院は最先端の治療や専門的な研究を行う機関でもあるため、患者の皆様は「技術的にも学術的にも優れた医療を受けられる」という安心感を持っています。ただし、それと患者の皆様が実際に感じる「利用しやすさ」や「ホスピタリティ」等は別ものです。
ネットの口コミの多くは、医師やスタッフの対応、院内の混雑状況、また会計の待ち時間など、患者の皆様の体験ベースで語られています。大学病院は通常、専門科も患者数も多いため、システムはとても複雑なことが多く、待ち時間も長くなり、受診方法も複雑になる傾向があります。そのような問題をどう緩和・改善していくのかが、口コミへの対策につながると思います。
SNS(Xやインスタグラム)については、大学病院としてアカウントを公式に運用している例も増えてきています。ただ、「専門的な医療情報や研究成果をどう一般の方に発信するか」「患者の皆様のプライバシーをどう守るか」は大きな課題です。
私としては、難しい医療の内容についても専門用語を噛み砕いてわかりやすく伝えたり、良い意味で医療が身近に感じられる投稿を発信していくことが重要だと思います。可能であれば、広報チームといった専門家メンバーと連携し慎重に行う方が良いでしょうね。
ネガティブな書き込みに対してどう向き合うか
<div style=”background: #fcfaf2; padding: 15px; border: 0px solid #fcfaf2; border-radius: 10px; word-break: break-all;”><span style=”color: #000080;”>‐‐ネットの口コミにはネガティブな情報も投稿されます。病院や医療従事者は、こうした書き込みにどう対応するのが望ましいでしょうか。</span></div>
柳川:医療機関としては、ネガティブな口コミにも耳を傾ける姿勢はとても大切です。また、その投稿自体が、もし事実誤認や明らかに根拠のない悪意のある書き込みであれば、適切な手続きを踏んで削除依頼を行うことも必要です。
しかし実際には、患者の皆様が何らかの不満や不安を感じ、書き込みをしているケースもしばしばあります。
医療は患者の皆様の生活や人生に大きく関わるもの。だからこそ、対応が冷たく感じられたり、言葉遣いが分かりにくかったりすると、「もっとちゃんと説明してほしかった」という声に繋がりやすいのです。そういった声は、病院としては組織改善につながる非常に貴重な意見でもあります。
ただし、口コミに対して病院側や医師が直接コメントを返すのは、トラブルを助長する可能性もあります。大学病院など組織として対応方針が決まっている場合は、それを守りつつ誠実な態度で臨む、そして特に遠隔医療が進むにつれオンライン上でのやり取りが増えている今、ネガティブな声も改善のヒントとして前向きに捉えることが重要だと思います。
医療従事者個人のSNS活用、何に気をつけるべき?
<div style=”background: #fcfaf2; padding: 15px; border: 0px solid #fcfaf2; border-radius: 10px; word-break: break-all;”><span style=”color: #000080;”>‐‐医師個人のSNS(個人のXアカウントやインスタグラム)で情報を発信するケースも増えています。医療従事者個人がSNSを利用する際、どのような点に留意すべきでしょうか。</span></div>
柳川:もし、SNS運用を医療者個人として行う場合に大切なことは、「医療の専門家としての立場を自覚する」ということです。個人の見解を述べるのか、医学的根拠に基づいた客観的情報を述べるのか、その境界があいまいですと受け手は混乱してしまいます。
また、患者の皆様の個人情報や治療内容などをSNSで安易に公開すると、プライバシー問題や法律違反になる可能性があります。研修病院での症例や手術実績を自慢するような投稿は、当然ながら避けなければならない。医療機関それぞれでもガイドラインを定めているケースが増えてきていますので、それを踏まえた上で発信する必要がありますね。
一方で、医師は、専門医の立場だからこそSNSを活用して、正しい情報を広めたり、業界全体の課題を訴えかけたりといった意義ある使い方も可能です。コロナ禍では、海外の論文情報や臨床の現場からの生の声などを医師がSNSで共有し、迅速に知見が広がったこともあります。そのため、「リスクばかり恐れて何も発信しない」というよりは、「どう正しく発信するか」にしっかりと向き合ってを、社会全体をより良い方向へ導くのが理想ではないでしょうか。
デジタル時代の病院広報と口コミとの付き合い方
<div style=”background: #fcfaf2; padding: 15px; border: 0px solid #fcfaf2; border-radius: 10px; word-break: break-all;”><span style=”color: #000080;”>‐‐最後に、SNS時代における病院広報や口コミとの付き合い方について、医療機関や医療従事者へメッセージをお願いします。</span></div>
柳川:医療機関が情報発信をする際、私は「患者の知る権利」を第一に配慮することが大事だと思っています。自院の専門性や特徴、また待ち時間対策や感染症対策など、分かりやすく伝えれば、患者やそのご家族の皆様が安心して来院できるきっかけになるかもしれません。
そして、口コミサイトやSNSでの評判に過度に振り回される必要はありませんが、無視できる時代でもなくなりつつあります。悪い評価があった場合、単に「不当だ」と感じるだけではなく、そこにホスピタリティ改善のヒントがあるかもしれないと考えることが大切です。
これは総合病院だけでなく地域のクリニックや個人医院にも共通しています。
医療DXが進み、遠隔医療やオンライン診療が当たり前になっていく中で、ネット上のやり取りや評判の共有はますます増えていくでしょう。医療者としては責任ある情報発信を心がける一方で、患者の皆様のリアルな声にもしっかりと向き合う。その両輪が、これからの新しい医療社会の質を高めるうえで鍵になると私は思っています。
編集後記
ネットでの評判は医師や医療機関にとって時に手厳しいものとなる一方、改善に活かせる貴重なフィードバックの場にもなり得ると柳川氏は強調します。大学病院や総合病院等の大規模医療機関では日常的に患者数が多く、受付・会計・治療前後の連携などに時間を要します。そのため、SNSや口コミサイト上ではその不便さへの指摘が集まりやすいと言えます。
しかし、それを安易に揶揄しているだけと決めつけるのではなく、「サービスの質を見直すためのヒント」として受け止め、組織全体で改善策を探る姿勢が重要です。医療機関が公式に正しい情報発信をしていくことで、不安や誤解が減り、またそれによってが、より多くの患者の皆様が、必要な医療に良い形でアプローチできる社会へとつながっていくはずです。